【レビュー】narcissu(ナルキッソス)|死生観を問い、静かな余韻に浸るフリーノベルの傑作

【レビュー】narcissu(ナルキッソス)|死生観を問い、静かな余韻に浸るフリーノベルの傑作

■ シナリオ

「眩しかった日のこと、そんな冬の日のこと……。」

本作は、ねこねこソフトの片岡とも氏による、フリーゲームとしての意欲作――というよりは、一つの「試験作」としての側面が強い作品です。同人という枠組みながら、そのクオリティは極めて高く、商業作品との境界線が曖昧に感じられるほど。

物語の中心にあるのは、避けては通れない「死生観」というテーマです。この手のジャンルが好きな人はもちろん、そうでない人にもぜひ触れてほしい。自分の中でこの物語をどう消化するか、正解を見つけること以上に、「何かを見つけようとする作業」そのものの尊さを教えてくれます。

印象的なのは、終盤の「ナルキッソスの丘」からラストの海へと続く流れ。セツミが見せた涙と、その後に横たわる「空白の時間」が、最後には耐え難いほどの切なさとなって押し寄せます。

冬の情景とは思えないほど美しいエメラルドの海。あれは現実だったのか、それとも……。

自死という幕引きを選んだセツミにとって、その決断が彼女の22年の人生においてどんな意味を持ったのか。「余韻とはこういうことを言うのだ」と、久々に痛感させられた一作です。


■ グラフィック

背景を合わせて数点という最小限の構成。しかし、それは「無い」のではなく、あえて「見せていない」だけ。効果的なブラックアウトの演出が、プレイヤーの脳内に舞台を鮮明に描き出します。


■ ヴォイス

ヒロイン一人のみの構成。この静謐な物語に寄り添う、これ以上でも以下でもない「この作品にしか合わない」完璧なバランスの声。言葉を超えた何かが伝わってきます。


■ サウンド

劇中の曲数は絞られていますが、ETC(おまけ要素等)に他の楽曲も収録されており、物語の空気を補完しています。


■ システム

ねこねこソフトの基本システムを搭載。安定感があり、物語を読み進める上で一切の不便はありません。


■ 総評

無料配布だからと甘く見るのではなく、純粋に一つの作品としての出来で判断すべき「よく出来たノベル」です。テキストの短さからSS(ショートストーリー)としての側面もありますが、その凝縮された体験は非常に濃密です。

私はハッピーエンドもご都合主義も大好きです。現実の厳しさを知っているからこそ、物語には救いを求めたい。しかし、作品が持つ価値や、描かれるべき真実を曲げてまで幸せな結果にする必要はないとも思います。

「映えるもの、それぞれの持つ価値」。それを守り通した本作の結末は、間違いなく「アリ」です。

■ 70点 クラス B